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夫婦で映画「永い言い訳」を見た感想※めっちゃネタバレ

「妻が死んだ。これっぽっちも泣けなかった。」

 

というコピーが印象的な西川美和監督最新作、「永い言い訳」をメキシコ人の夫と一緒に見てきた。

 

 

監督好きの私とモッくん好きの夫

 

西川監督といえば初めて見た「ゆれる」が衝撃的で夫にも勧めて見てもらった。

 

ほかに「夢売る二人」や「ディア・ドクター」も見たが、私の中で「ゆれる」はダントツだ。

 

そして夫は「おくりびと」のファンで、モッくんが出てるから見たい、てことでふたりで見てきた。

 

ちなみに梅田となんばのTOHOでは午前の1回上映だったので、夜に上映していたイオン大日まで足を伸ばしてきた。

 

こっからめっちゃネタバレ

※ほんとにラストまでネタバレしきりますのでこれから見ようと思っている人は見てから読んでください!!※

 

 

トーリーは、モッくん演じる落ち目の作家が、自分が浮気してる間に奥さんに事故で死なれてどうしよう、という話。

 

このモッくんが冒頭からめっちゃ嫌なヤツなのが良い。

 

ネチネチしててネガティブでイライラさせる男の代表。

 

「は~、奥さん、大変やな~」て思ってるとわかりやすく浮気している。

 

「うっわ最悪コイツ!」て思った矢先に、奥さん死ぬ。

 

もう、最悪。

 

ここからストーリーが始まる。

 

第一印象最悪のモッくんがだんだんいいやつになっていく

 

そんな冒頭から全女性を敵に回したモッくん、奥さんが死んで放心状態。

 

悲しんでいいのかもわからない。

 

そこに出てくるのが亡くなった奥さんの親友の旦那さん。

 

この親友も同じ事故で亡くなっていて、旦那さんとは事故を起こした会社の遺族説明会で知り合う。

 

旦那を演じるのは歌手の竹原ピストル

 

♪ようそこのわけえの、俺の話をきいてくれええええ

 

ってCMソング歌ってる人。

 

彼がモッくんと反対によく泣く。

奥さんのこと大好きやったんやねえ、て感じで。

 

彼はトラックの運転手で、二人の子供がいる。

 

母親を亡くしたことで塾に通えなくなり、中学受験を諦めようとしていた長男のために、モッくんがトラック野郎のピストルに代わり家で子守をすることになる。

 

そこからストーリーが動き出す。

 

見ていて感じるのは、

 

「モッくんめっちゃ子守するやん!」

 

てこと。

 

あんだけ最悪なキャラで自分に子供もいなかったのに、なぜこんなに子供心をつかむのがうまい?

そして面倒見がいい?

 

と、第一印象が最悪なだけにだんだん「コイツ実はいいヤツ…?」と疑いだす。

 

「子育ては男の免罪符」

 

と、モッくんの偽善に騙されそうになっているところで出てくるのがマネージャーみたいな男、池松壮亮

 

余談だが彼は是枝監督の「海よりもまだ深く」でも超似た感じの役やってた。

こういう役似合う。

 

モッくんが子供の写真を見せてはしゃぐのを冷静に見つめる池松。

それに気づいたモッくん、

 

「俺らしくないって思ってんだろ?」

 

と聞く。

 

フッと唇の端で笑い「そんなことないっスよ」と携帯を投げてよこす池松。

 

そこには子供と写る池松の姿が。

 

「子育てって、男の免罪符じゃないスか。

 

どんなに自分がクズでバカでも、子育てしてれば何かの役にたってる気がする。

 

でもね、モッくんさん。奥さん死んでから、ちゃんと泣きました?」

 

ギクリとするモッくん。

 

「泣くとか…そういうことが問題なの?結局」

 

と逃げる。

 

(セリフはうろ覚えだけど、大体こんな感じ)

 

子守は彼の罪滅ぼしだった

 

そうか。彼があんなに子供たちを気にするのも、一生懸命尽くすのも、全ては自分の罪悪感から。

 

奥さんが死んだ時に浮気をしていた自分を責める人は誰もいないけれど、唯一自分がいちばん責めている。

 

奥さんが死んでも涙も出ない、どう感じていいか分からない自分を責めている。

 

やがて彼は子供たちの間にも自分の居場所がなくなると感じ、自ら去る。

 

愛していい人が誰もいなくなる。

 

荒れた生活に戻ったモッくんだったが、ある日ピストルがトラックで事故を起こしたと電話が入る。

 

子供たちの元に駆けつけるモッくん。

 

幼い妹は人に預け、お兄ちゃんだけ連れてピストルが入院している病院へ向かう。

 

電車の中で、お兄ちゃんは言う。

 

「お父さんに言ってはいけないことを言ってしまった」

 

ピストルが事故を起こす前、反抗期に入りかけていた彼は

 

「トラック運転してるやつに僕の気持ちはわからない」

 

と暴言を吐いていた。

 

そこでモッくんは語る。

 

「自分のことを大事にしてくれる人をみくびったり、貶めたりしちゃいけない。

 

僕のように愛していい人が誰もいなくなる

 

彼は、自分が誰も愛していなかったことに気づく。

 

最後、ずっと書けなかった小説家である彼が、ノートに書き付けた一言が今も頭に残っている。

 

深くて哲学的で、考えさせられる言葉。

 

監督の見せ方の絶妙さ

 

西川美和監督は、是枝裕和監督のもとでキャリアをスタートさせた。

 

是枝監督といえば「誰も知らない」柳楽優弥を世に送り出し、最近では「そして父になる」「海よりもまだ深く」といった作品がある。

 

私も大好きな監督だ。

 

西川監督もその雰囲気を受け継いでおり、特に子役にわざとらしい演技をさせず、アドリブの中から自然な言葉や表情を引き出すのがうまい。

 

是枝監督より西川監督の方が伏線をしっかり作り、大事なポイントは言葉でもちゃんと説明する。

見るものに親切な映画という印象だが、それで退屈な作品にならないのは

 

「見せるところと隠すところ」

 

バランスが絶妙だからだろう。

 

今回も、女性監督なのに男性心理の描き方がとてもうまい。

 

かと思えば、奥さんが死んだ後にモッくんにエッチを求められ、最中にしらけている浮気相手の表情など、女なら「あるある!」と膝を叩きたくなるシーンだ。

 

しかし、である。

 

最後まで「死んだ奥さんの気持ち」は誰にもわからないのだ。

 

冒頭の雰囲気からおそらく浮気には気づいていたであろう。

 

物語の途中途中に、奥さんに関するヒントもたくさん出てくる。

 

しかし最後まで、彼女の気持ちはモッくんにも見ている我々にもわからない。

 

もう死んでしまったから、誰も聞くことができない。

時はすでに遅かったのだ。

 

単なる夫婦愛の物語ではなかった

 

予告編やテレビでの紹介のされ方を見て「夫婦愛の話かな」と思いきや、これは人間の愛の物語だった。

 

思えば西川監督の今までの作品も、テーマは単なる「男女間の愛の物語」ではなくもっと根源的な、「人が人を愛すること」。

 

夫婦であろうと親子であろうと、人が人を愛することについてちゃんと考えないと、気がついた時にはもう相手はいない…かもしれない。

 

夫婦の物語ではないけれど、それでも夫婦で見てよかった映画だった。